設立の趣旨

  1. 設立の趣旨


     日本学は、日本および日本人を総合的に研究する学として、すでに古い伝統を有する。
     日本文化発展の過程において吸収された大陸文化・西欧文化の影響は、日本人の思惟および文化を極めて複雑多様ならしめた。日本学はその多様性を歴史的現実として認めつつも、さらに一歩を進めて、日本固有の性格が外来文化の影響下にいかなる変容をうけ発展したかを、その時々の歴史的背景に着目しつつ日本文化の本質析出することによって、今後の日本および日本人の独立性と発展の方向を見究め、かつ確立しようとする。
     したがって、研究の対象と方法および領域は、近代科学のうち、人文・社会両科学の分野にわたる。ただしこれら既成科学の特定分野を通して個別的に分析し、その成果を帰納する方法によることはいうまでもないが、それのみでは、部分的・一面的・外面的把握に終るおそれなしとしない。この欠陥の反省に基づき、日本学は、直接日本および日本人そのものを研究の対象として、これを総合的、全体的、さらに内面的に把握せんがために、論究をすすめることをもって特徴とする。
     わが国の学芸史上特異の地位を占めている江戸時代に、崎門学・武教・水戸学・国学などの諸学が並び立って、危機における日本人の自覚的回心に貢献したことは周知のところであるが、それら諸学の研究の中には、谷泰山の如く「日本の学」と称した人もあらわれた。これらはまさに日本学の先達といってよい。ただその後、明治開化と共に移入された西欧の学術・宗教等の影響によって、日本および日本人の個性・固有文化・独自性は、その所在を明確に自覚することが困難を加えるやうになった。ここに日本学はますますその必要性を痛感されるに至った。
     協会発起人等はここに思いをいたし、すでに数年前から日本学の研究に着手し、その成果を発揮するために学術雑誌「藝林」、啓蒙雑誌「日本」を発行する等、その発展と普及に努力してきたが、より一層の発展を期するため、財団法人日本学協会を設立しようとするものである。
  2.        
  3. 設立までの経過


     協会設立までの経過について、前記「設立趣意書」に簡潔に触れているが、次に若干の補足説明を加える。  
       
    1. 本協会の発起人を中心とする研究者の間では、既に昭和初期から日本学に関する研究が進められてきていたが、昭和二十年以降のわが国の混迷その極に達せる状況は、日本学の研究と普及の一層の必要を痛感せしめるところとなった。
      ここにおいて、日本学に関する学会の設立、機関紙の発行等が関係者の間で建策されるようになり、昭和二十四年ごろから、その具体化のための協議や準備が進められるようになった。
    2. その第一着手として、昭和二十五年四月、日本学に関する学術研究誌として「藝林」が創刊され、学術研究会として「藝林会」が発足した。
    3. 次いで、昭和二十六年四月、日本学普及のための雑誌として「桃李」(月刊)が創刊され、この「桃李」を機関誌として日本学の普及を図るための組織として「桃李会」が設立された。
    4. 更に、昭和二十九年八月、日本学の研究成果を一般に普及するための講習会が大阪府南河内郡千早において開催された、この講習会は、それ以降、毎年八月、定期的に開催される。
    5. 以上のような経過の中から、日本学の研究及び普及を一層充実促進するため、法人設立を求める議が起こり、昭和三十年より準備が進められるところとなった。

  4. 協会の発足

    1. 設立準備委員会総会の開催


      前述のような経緯の下に法人設立準備が進められた結果、昭和三十一年三月十五日、東京において、「財団法人日本学協会設立準備委員会総会」が開催されるに至った。
       右総会において、「設立趣意書」「寄附行為」「事業計画」「収支予算」等について慎重審議の結果、すべて満場一致で可決された。
        また、設立代表者には、松木通世が推され、役員は次の如く選任された。   
          
      • 理事: 松木通世 村尾次郎 名越時正 村川重太郎 久保田収 坪田翠 原 正
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      • 監事: 植木庚子郎 高橋衛
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    2. 文部大臣への申請


        昭和三十一年三月十五日付をもって「財団法人日本学協会」設立につき許可を求めるべく、文部大臣に対し申請した。
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    4. 協会設立の許可と登記


        昭和三十一年六月十九日付をもって、財団法人日本学協会の設立を許可する旨、文部大臣(清瀬一郎)より伝達があり、ここに協会は正式に発足することになった。引続き六月二十一日に登記を完了した。