『日本』令和7年5月号
オイスカ研修生の見た日本
尊重し合う国柄が平和をつくる>
マウサ・バティシ(愛称トゥイ)/(フィジー)
ブラ!(私の国のあいさつで、朝から夜までいつでも使えます)
私はフィジーからまいりました。トゥイと申します。香川県にあるオイスカ四国研修センターの地域開発コースで有機農業や食品加工などについて約八ヵ月間学びました。研修の途中で膝の半月板損傷という大きなけがをしてしまい、みんなと一緒に実習ができない時期もありましたが、無事に研修を終えてこれから帰国するところです。
日本に来る前、フィジーでも家族で農業をしていましたが、フィジーの主要な作物であるサトウキビのほか、キャッサバ、トウモロコシなど、主食になるものばかりで、野菜を育てたことはありませんでした。日本で新しい栽培技術を学ぶことができてうれしかったです。国に帰ったらキュウリやトマトを有機で育てて町のマーケットで販売するほか、ホテルに直接配達できるようにもしたいと考えています。有機栽培は環境に良く、人々の健康にも良いのですが、少し値段が高くなります。でも、マーケットに朝、出荷しても夕方までしおれにくく、きれいなままなので、フィジーの人たちにもその良さを分かってもらえると思います。
そして、私は養鶏にもチャレンジしたいです。フィジーのオイスカの研修センターの農場では、マーケットから提供される野菜くずや、ミミズを使った堆肥(たいひ)づくりを行っていますが、鶏糞(けいふん)も使いたいです。四国研修センターでは、うどん屋さんからだしをとった後のいりこをもらってきて、堆肥づくりにも活用していました。私は鶏糞を使って、もっといい土づくりをするためにも養鶏に取り組みたいのです。
それと、日本では出荷の仕方もたいへん勉強になりました。センターでは、収穫後に野菜をきれいにして袋に詰めていました。ミニトマトも一つひとつきれいに拭いたあと、同じ重さになるようにして袋詰めをします。いろいろなサイズの袋や野菜の形に合った袋があり、とても便利です。わざわざ袋に入れるのは手間がかかるように思えるかもしれませんが、こうして準備をしておくことでスムーズに出荷ができます。日本ではいろいろなことがシステマティックに動いていて、二度手間にならないように考えられていると思います。こうした点もとても勉強になり、この経験は帰国後も役に立てられると思います。
もう一つ日本での農業の効率をよくしているのは道具です。農業以外でもそうですが、日本では道具がとても使いやすく作られています。フィジーではなんでも一つの道具ですませてしまいがちですが、日本には作業に合わせた道具があり、とても便利で仕事がしやすいです。私は野菜の収穫がしやすいようにセンターで使っていたはさみと同じものを買って国に持ち帰る予定にしています。
私は日本に来る前、日本は犯罪が少ない平和な国だというイメージを持っていましたが、本当にその通りでした。悪い人たちがいないので、安心して生活ができます。私の国では泥棒が多く、畑の野菜が被害に遭うこともよくあります。しかし、日本に来てからはセンターの畑でも周辺の畑でもそのようなケースを見たことも聞いたこともありません。また、最近フィジーでは若者の飲酒運転による事故死やドラッグなども問題になっています。こうした問題は家庭でのしつけに原因があるのではないかと感じています。親が子どもに責任を持たなくなってきているように感じます。子どもの主体性に任せているように見えますが、放任しているだけだと思います。
日本では人々がルールを守り、お互いに気持ちよく生活できる社会を作っています。これは、家庭でも学校でもあいさつを大切にしているからではないでしょうか。フィジーでは、毎日顔を合わせる家族や友達にわざわざ「おはようございます」と丁寧なあいさつをしません。「ブラ!」とか「ハイ!」と気軽に声を掛け合うだけですが、私がセンターに滞在している間、毎朝、先生や友達とお互いに「おはようございます」と会釈をしながら丁寧にあいさつをしていました。こうすることで相手を大切な存在だと思えるし、私もそのように扱ってもらえていると感じられます。日本はあいさつをすることで、お互いを尊重し合う気持ちを育み、その結果、相手に悪いことをしようという気持ちが生まれない社会をつくっているのではないかと考えました。とても素晴らしいことだし、フィジーもそうありたいと思うようになりました。まずは丁寧なあいさつをする習慣を母国に持ち帰りたいと思います。