『日本』令和7年5月号

五月号巻頭言 「日本魂」 解説
『雑話続録』は、『雑話筆記』とともに江戸時代中期の崎門学者・垂加神道家である若林強斎の学談を筆録したもので、彼の人となりを活き活きと伝へてゐる。ここで強斎は、君すなはち天皇を仰ぎ奉り、それを貫き通す心こそが「日やまとだましい本魂」であると語る。「やまとだましひ」といふ言葉は、古く『源氏物語』に見えるが、これを皇室尊崇の念に純化・集約して説き、新たな生命を吹き込んだのが強斎であつた。
その後、強斎の門弟・松岡雄お 淵ぶちは『神道学則日本魂』を著はして、日本魂を神道精神の中核に据ゑ、その学を承けた谷川士こと清すがによつて「和魂漢才」の語も世に行はれた。さらに士清の「何故に砕きし身ぞと人問はばそれと答へむ日や ま と 本玉しひ」の詠は、本居宣長の「敷島のやまと心を人問はば 朝日ににほふ山桜花」を導き出すこととなる。
なほ、詳しくは先年刊行された若井勲夫氏の『大和魂・大和心の語誌的研究』(錦正社刊)を参照されたい。
(松本 丘)